新婦人しんぶん3月19日で紹介した、高知県土佐町議会の全国学力調査(全国学力テスト)を抽出式(サンプル調査)に改めることを求める「意見書」をアップします。ぜひ、参考してください。
高知県土佐町議会が昨年12月、全国で初めて、全国学力調査(全国学力テスト)を抽出式(サンプル調査)に改めることを求める「意見書」を可決し、メディアもいっせいに報道! 「子どもは点数なんかじゃない」と「意見書」運動をよびかける教育研究者で土佐町議の鈴木大裕さんを、高知の会員が訪ねました。(新婦人しんぶん3月19日1、2面より)
子どもたちは点数なんかじゃない!
鈴木 今日は見せたい写真があったんです。(パソコンで写真を示して)泣きながら宿題をやっているアメリカの女の子の写真です。「私は写真家。娘を撮った写真の中で、唯一私が嫌いな写真です」と言葉が添えてある。この写真がフェイスブックで公開されると、多くの人の琴線にふれました。(アメリカで)教員と保護者が手を組み始めるきっかけとなった写真です。
井上 うちの小6の子が2学期の途中から学校が嫌と言い出して…。聞いてみると、先生から宿題をきっちりやってくるよう詰められていて。
鈴木 アメリカでは学力テストの点数で、学校や子どもや教員まで評価されるので、宿題が多いわけです。どんどん量が増え、幼稚園でも算数が始まる状況に。これって子どもの発達的にはどうなの? と専門家からも声があがりました。高知市もテストの数が多いですよね? 県と市の独自の学力テストに、中学生になると定期考査が入ってくる。
井上 中3は、その他に4月実力テスト、5月中間テスト、6月実力、7月期末、8月実力、期末で、もう毎月です。
鈴木 授業数も多くないですか?
井上 多いです~。
鈴木 僕らの頃は、平日遊んでましたよね。いまは遊ぶ時間がない。
深瀬 小学1年生も入学後すぐに5時間授業があってびっくり。あと美術とか音楽が削られていると聞いています。
鈴木 それは大問題です。ぜひ、教職員組合とタッグを組んで調査をしてください。テストによって、どれだけ授業時間がつぶれているのか。学習指導要領にすらそっていないのでは。
「違法」状態鈴木 全国学力調査は、国による教育への不当な支配なのではないか、と争われた「旭川学テ事件」の最高裁判決があります。判決では違法ではないとして行政側が勝利しましたが、その理由が重要です。一つが「成績を開示して競争を煽っているわけではない」と。
井上 えー! 今は開示してますよね?
鈴木 そうです。都道府県別、政令指定都市別、学校別にも開示が可能です。もう一つは、「学力テストというのは平易なものであるから準備を要するものではない」と。
浜田 えー! 準備してるし、対策テストもしてるしー。
鈴木 そう。いまの現状は、限りなく違法に近い状態です。
昨年12月の高知県議会で、面白い答弁がありました。県教委が市町村教委に全国学力調査(学テ)での点数を上げるプレッシャーをかけていた文書を米田議員(共産)が見つけた。追及すると、教育長は答弁で全部回収して差し替えたと。最高裁判決のことが頭にあったのではないでしょうか。
「勝ち組」の先は井上 先日、教育長に「子どもも親もしんどい思いをしている。県の学テはやめて」といったら、黙ってしまいました。
鈴木 トップで政治をやってる方たちの多くは、競争を勝ちぬいてきた人たち。それは僕、尾﨑前知事にも感じました。きっと高知県を「勝ち組」にしたいんだろうなって。でもそれじゃあこの格差社会体制は変わりません。
井上 私たち自身が学力競争に慣らされてきた世代なので、ものすごく葛藤します。
鈴木 僕のモットーは、「子どもの教育を通して、社会のあり方そのものを問い直す」です。今、問われているのは「日本における『勝ち組』の先に幸せはあるのか?」 という根源的な問いです。もしその先に幸せがないのだったら、そんな「勝ち組」になりたくない。
教育に市場原理が
鈴木 2007年に全国学力調査が悉皆式(全員参加)で復活して、規制緩和で成績が開示されるようになって、学校選択制などの市場原理が回り始めました。
4月からは、新しい学習指導要領が使われます。これまでは「何を学ぶのか、何を教えるのか」というカリキュラムが基準でしたが、今度からは「何ができるようになるか」と、いわゆるパフォーマンス・スタンダードというものへ形を変えつつあるんです。
井上 結果が重視される、ということですか?
鈴木 そうです。早く安く効率的にA点からB点まで子どもたちを到達させればいい、というような考えになっていきます。いま「働き方」改革が言われていますが、そこから想像できるのは、部活動がなくなって、委員会活動、春の絵を描く会、合唱コンクール、修学旅行、全部そぎ落とされていくかもしれません。委託から始まって、完全に民間に依存しきったところで予算が切られる。アメリカなどで取られてきた手法です。そうなると、スポーツや音楽をちゃんとやりたければ、お金が払える家庭に生まれるしかないということになる。格差社会です。
深瀬 もう始まっているかも…。サッカーもクラブチームで、とか。
鈴木 部活動も、先生たちがあまりにもしんどいので、やりたがらない。でも部活動が悪いんじゃない。部活動を学校教育の中に位置づけるのであれば、ちゃんとお金をつけて、人員も配置する。教員の良心に甘んじてやってきたからいけないんです。
学テ受けない選択
鈴木 アメリカでは、宿題がふえ、子どもたちの体にも異常が出始めました。髪の毛が抜けたり、嘔吐したり。それでテスト結果を基にした「データ主導型教育改革」に対して、「データを渡さない」と親たちが言い出し始めて、「テスト怪獣に餌を与えるな!」のキャッチフレーズで、子どもたちにテストを受けさせない運動が広がりました。
浜田 学力テストって、数学とか国語とか、そういう勉強しか測れない。いい点数とって、進学校に入って。でも、それで社会に出て、生きていけるのか…。
鈴木 僕は、社会における「成功」の価値観、「幸せ」の形の多様化なしには、真の教育改革はあり得ないと思っています。成功モデルが学歴や年収だったら、真にユニークな教育なんかできないし、何万人もの子どもたちを取りこぼします。子どもたちの良さを磨いて、生かすような教育をしたいし、そういう社会であってほしいです。
深瀬 学力テストの「意見書」運動が、そういう教育へとつながるきっかけになるといいな。
鈴木 「意見書」運動の真の目的は「公教育の市場化の歯車を止める」です。要は、すべての生徒が受けなければ、比較ができないわけですよね。先生の結果責任も問えない。理想をいえば「抽出」ではなく「廃止」ですが、多くの市町村議会で可決されることによって国に対して大きなメッセージになる戦略的なチョイスです。他の自治体でも広げるため、FBグールプを立ち上げ、沖縄から北海道まで900人が参加しています。
希望を語る!
井上 昨年の県知事選挙では、野党統一候補の松本けんじさんの教育政策も作りましたね。
鈴木 あのマニフェスト、ちょっと革新的です。僕だけじゃなくて、友人の弁護士とか教育学者だとか現職教員にも手伝ってもらって作ったんです。一つは学力改革で、何をもって「学力」というのか。もう一つは教員不足、働き方改革についてです。これは、子どもの学習権の保障という観点から見直しています。
浜田 松本候補が教育の話をするたびに、涙がでました。
鈴木 シカゴで教職員組合ストが起こったとき(2012年)、大きかったのは「シカゴの子たちにふさわしい」という教育ビジョンを作ったことなんです。そういうのが大事で、反対だけでなく、何を目指すのか、です。
深瀬 私たちができることはなんでしょうか。
鈴木 一つには、「子どもの幸せ」をキーワードに先生とつながること。先生も親も子どももしんどい。つながれないはずがありません。いい教育の答え探しをするんじゃなくて、なんでこういうことになっているんだろう、お金はどこにいっているんだろうって。お金の行方を追え! みたいな。もうひとつは、顔の見える関係性で、教育を語るっていうのをぜひやってほしい。
深瀬 子ども一人ひとりと、つながるということですね。
鈴木 そうです。アメリカでテストをボイコットした親たちの運動スローガンは「私たちの子どもは点数じゃない」です。
深瀬 高知市支部は、元教員の力もかりて、学校カフェを開いています。
鈴木 まずは県の学力テストはやめさせたいですね。今日、いいアイデアもらいました! 各市町村で、県に対する意見書を出せばいいんです。それ、新婦人でやりましょう! 6月議会! それこそ新婦人の本領発揮です!
井上 新婦人は全自治体に会員さんがいるので…。
鈴木 高知県は土壌が耕されているから、やるんだったら、今です。廃止だけじゃなくて、その予算で、例えば美術の教員を雇うでもいいし、教員を増やすでもいいし。
井上 コロナ対策で学校が一斉休校して、学習権すら保障されていないときに、この4月学力テストしてる場合じゃないですよね。希望を語りながら、運動します。