新婦人しんぶん 2020年6月4日号、4面-5面の記事を紹介します。
一律学費半額に!
コロナ禍で保護者の収入が激減したり、学生のアルバイト先の休業など、〝5人に1人が退学を考える″事態が起こっています。全国200を超える大学の学生が、学費減額や支援を求めるインターネット署名を展開。運動は、大学の垣根を越え、「一律学費半額化」を求める署名アクションへ発展しています。代表で大学院生の山岸鞠香さんに聞きました。
「1人200円はおかしい!」
コロナ禍で学生が退学せざるをえない実態を明らかにし、各大学とつながって「一律学費半額」を求めるネット署名にとりくんできましたが、第一次補正予算案で盛り込まれたのは7億円。学生一人あたりわずか200円というものでした。
私たちが記者会見や署名提出などで、連日マスコミやSNSを通じて世論を起こし、授業料減免費用は500億円になりました。でも、この500億円は消化しないのでは? と私たちは思っています。給付対象は全学生の1割程度と限られています。申請できる人が少ないし、知らない人がほとんどだからです。
例えば、申請にはアルバイト収入の「50%減」という条件がありますが、困窮している学生は、感染リスクにおびえながらも、学費や生活のために、アルバイトを続けていました。「50%減」が条件となれば、「休めない環境にあった人」を切り捨ててしまいます。 大学が授業料を減免した場合、助成する学生支援給付金がありますが、各大学まかせです。大学は、学生から大量に寄せられる申請の中で〝下から何十人を選ぶ〟という作業で、学生には大学の事務から深夜や土日にメールが送られてきたり…。もちろん学生には申請してほしい。応募数があることによって、需要があることが可視化できるからです。
その一方で、職員が過労で倒れるのでは…。私たちが「一律学費半額」と求めてきた理由は、こういう作業を省くためのものでした。 国は、授業料減免の審査を各大学にやらせることで、審査に落ちた恨みは大学に向かわせる=学生が国を恨まないようにさせる仕組みになっているのです。
貸付、学生ローン、高い学費
学費の前期分は貯金を切り崩してなんとかなったとしても、後期分は難しいというのが多くの学生の声です。
各大学がはじめた学生支援も「貸付」がほとんどです。返済期限が2年後というところもあり、在学中に返済を迫られるケースも。すでに学生支援機構(学生ローン)で借りている人には、さらなる借金でしかありません。
東京のある私学では10万円貸し付けて返済は3カ月後です。本気で支援する姿勢ではありません。休学する場合も私学では年間90万~70万円の支払いが迫られ、奨学金もストップ、学生寮も出なくてはいけません。「5人に1人が学校をやめる」と考えている、その理由が見えてきました。 この状況は、そもそも学費が高いことから起きているのです。
ひとまわり、ふたまわり上の世代とは、学費も物価もバイトの単価も違います。「バイトをがんばればなんとかなる」という状況になく、みんなが苦学生です。相当な時間数をバイトに費やし、稼ぐしかありません。
つながって声をあげる
学費問題で、各大学への署名運動から国の予算要求への共同のアクションになったきっかけは、SNSを通じて、学生たちが交流したことです。
私は、1年前から「チェンジ・アカデミア」という大学院生のアカデミック・ハラスメント(アカハラ)や学費をテーマに活動しています。当時の孤軍奮闘の経験があったので、声を上げた学生たちと、とりあえずつながって、ノウハウとかも共有していこうと、かたっぱしから声をかけていきました。
つながってみると、署名の効力やどこで集めるのか、だれを対象にするのか、署名はどこに出すのかなど、わからないことがいっぱい。みんな同じことで悩んでいました。そのうち、まとめてくれる人がでたり、署名を集めている人が、これから集める人にアドバイスしたり。
ほとんどの学生は大学とかけ合った経験がなく、「学長に署名を出したいけど、どうすればいい?」と聞きあったり。学長からの返答もSNS上で共有したので、いろんな学校の事情をみんなが知ることにもなりました。
SNSのバッシングにも抗あらがう
私と新婦人との出会いは、2年前の東京医大の入試女性差別に抗議する「怒りの女デモ」(神奈川)です。私にとって初めてのデモで、怖くて、参加というより見ているだけでした。でも、そこで力強い女性たちの姿を見るだけで、〝自分の心持ちが変わる″というのを体感しました。新婦人やフェミニストのツイッターを見るだけで、自分の尊厳が保てるような感じもありました。
今回、SNS上で「金をせびっている学生」「大学生は遊んでる」などのバッシングがありました。 日本では、差別発言や悪意ある意見でも、〝貴重な意見として受け止める〟という風潮があります。でも、不寛容なものに、寛容になる必要はありません。それをしたらメンタルがやられちゃう。でも一人ではしんどくなっちゃうので、みんなで悪意ある発信に対して、「これはおかしい」ということを「認定」していきました。これは2年前に活動を始めたときに気づいたこと。今回、生かせてよかったです。
高い学費は「構造的差別」
大学院にすすめない人が増えています。お金がかかることが関係しています。 学費が高いというのは、ある意味で差別です。経済的な弱者の存在を排除した制度をつづけ、放置してきたことが、日本の社会の歪みに直結していると確信しています。
コロナ禍で、これまでなんとかバイトや学生ローンで学費を払えていた人たちが切り捨てられていったら、この日本社会の狂いは加速すると感じます。だから譲れないんです。私は、学生たちの〝まとめ役″として、控えめにしていますが、しぶとくやっています。
先日発表された第2次補正予算でも、要望は実現していません。次なる狙いは、臨時国会です。保護者や、企業の経営者、そして大学をまきこみたい。学生が次つぎと退学したら、大学こそ困るはず。ここまで学生がお膳立てしているのに大学が何もしないなんて、あきれます。
今後、大人目線での学生支援の重要性を訴えていきます。
ネット署名は以下から
安倍晋三内閣総理大臣-国による一律学費半額と-大学などへの予算措置を求めます
署名 「国による一律学費半額と、 大学などへの予算措置を求めます」
1.国の予算で一律の学費半額化を求めます (要請項目)
経済的影響が長期化することで、学業を続けることが難しい学生が大量に出てくる恐れがあります。対象が狭く審査に時間をとる現行の制度ではなく、国公私立の違いや、課程や学年の違い、国籍の違いを問わない学費半額への一律減額を求めます。
2.大学などへの予算措置を求めます
国は、新型コロナへの対応で増えた大学などの費用を補填してください。大学ではオンライン授業の設備投資や教職員の残業代など、予期せぬ負担が出ています。例えば、図書館休館に伴って書籍を貸し出すシステムを各大学が整備する際、国がこの費用を補償してください。