2020年11月4日 アクション

「性差の日本史」展に行ってきました

 国立歴史民俗博物館(千葉・佐倉市)で開催中の企画展示「性差(ジェンダー)の日本史」が話題です。

 ジェンダー視点から「政治」「仕事とくらし」「性の売買」の3つのテーマで日本史をたどる、初の企画です。新婦人の若い会員がレポートし、プロジェクト代表・横山百合子教授に聞きました。

 

新婦人の会員がレポート

政治 3~5割が女性首長の古墳

 会場に入って最初の展示は、5世紀前半に築造された女性首長の古墳から出土した副葬品です。女性が葬られた古墳は権力者の妻のものだと思いこんでいましたが、女性首長の古墳が全体の3~5割もあることにびっくり。邪馬台国の「卑弥呼」は特別な存在ではなかったことを知りました。  

 しかし、4世紀後半から5世紀、朝鮮半島の緊張が高まり、非常に激しい対外戦争の時代に入ると、女性首長が減っていき、古墳も小さくなっていったそうです。戦争、暴力とジェンダーを考えずにはいられません。  

 平安時代には官位をもって働く女官がいたこと、鎌倉時代の北条政子は将軍とみなされていたことなども興味深かったです。  

 8世紀、律令国家が成立し、その後武家政権へと移っていくとともに、女性は御簾の中へ、奥へと政治空間から区分されていきます。そして、明治維新で近代国家が成立すると女性の政治からの排除が決定的になりました。近代とは女性にとってなんだったのかと考え込んでしまいました。(Y・40代)

 

 

仕事とくらし 女性の意志とは別につくられた

 このテーマのはじめは古代の「生活の場」を、模型や遺跡出土品で紹介しています。  

 出土した木簡には男女の名前があり、8世紀から9世紀半ばころの田植えは男女混合で行われていました。9世紀後半からは女性の比率が高まり、いわゆる後の「早乙女(田植え女)」の原型が生まれ始めたとのこと。日本では農耕社会が長く続き、地域の集まりにも女性が参加していた様子がわかりました。  

 中世の屏風絵には呉服屋、扇屋、藍染め業などの女性が仕事をしている様子があるのに、近世になると遊女など性的要素の強い職種、巫女などに限定されていきます。博物館などで絵巻や本を見ることはありましたが、ジェンダー視点で見たのは初めてだったと気付きました。

 近世社会では女性は家にいるべきとされ、家の外で職を得たりすることは公的には認められにくくなっていきます。ジェンダー視点で見ることで、職業が、女性の意志や自由とは別に時代の支配層や人びとによって作られてきたことがわかり、その分、流動的なものだとも思いました。  

 いまは、職場でのヒールの高い靴の強要に抗議する#KuTooのように声をあげる人がいて、それに強い共感が寄せられる時代。エピローグでも語られた「歴史をみて変えられることを知る」を強く意識しました。(M・20代)

田植えをする女性たち 農業全書第一巻 農事図 1697年(国立歴史民俗博物館蔵)

 

 

性の売買と社会 軍事化と一体に広がった遊廓

 前の二つの展示室とはうって変わり、部屋の空気は重く、見学者からも時折小さなため息がもれます。  

 性を売る「遊女」とよばれる女性は9世紀後半に登場しました。当時は性を売るだけでなく、芸能にもたけ、独立した自営業者として主体的に生きていたとされ、自分が持っていた「遊女」のイメージがガラリと変わりました。ところが近世になると、江戸幕府の公認のもと男性が経営する遊廓で売春をさせられ、「商品」となっていきます。目に飛び込んできた「遊女大安売り」と書かれた遊廓のチラシ。女性がモノのように売り買いされていたことに悔しさが込み上げます。  

 「遊客数の推移」という展示に足が止まりました。国家の軍事化とともに遊廓が拡大していく構図が見えてきます。日中戦争に突入する1930年代には一年間で3000万人を超える男性が利用したと。この数に卒倒しそうになりました。当時の男性の人口は約3500万人ですから、いかに売買春が日常にあったかを物語っています。そして、各地につくられた軍の師団のそばに遊廓が設置され、多くの女性たちが犠牲にされました。国家の軍事化と一体に遊廓が広がったのです。

 日本軍「慰安婦」問題に謝罪をしてこなかった歴代政権のこと、今も基地のそばで性被害が多発していること、110年もの間、刑法の性犯罪が改正されなかったことが頭をよぎりました。これはけっして遠い昔の話ではないのです。(T・30代)

遊女大安売(万字屋の引き札)1851年(国立歴史民俗博物館蔵)

 


 

 

自分らしく生きられる手がかりに

「性差の日本史」プロジェクト代表 横山百合子さんに聞く

 

―注目の企画、 にぎわっていますね。 

 想定外でびっくりしています。コロナ禍で、展示ができない場合も考えて作った図録も、初版が売り切れるなど好評です。政治家の発言も重なって、みなさんがジェンダーの問題を敏感に考えていらっしゃるときだったのかなと思っています。  

「性差の日本史」は、2016年から3年間かけて行われた共同研究の成果を発表する企画です。日本の歴史は長く、文字史料が豊富な国なので、変化がよくわかります。今当たり前だと思っているジェンダー規範が、歴史を見ると全然違う。どのテーマも、変化に注目してください。「今」は絶対ではない、変わるということを知っていただき、誰もが自分らしく生きられる社会を築く手がかりにしていただければと思います。  

 これまでの史料も、ジェンダー視点で見ることで見方が変わってきます。歴史学でジェンダーに光があたったのは、21世紀に入ってから。少ない女性の史料から理解を深めることが、歴史研究者の責任、仕事になるわけです。今回の展示も8割が共同の研究の成果です。

 

―「性の売買」の展示はショックでした。 

 このテーマは、ここ10年間で研究が進んだ分野です。以前は歴史学の対象になっていませんでした。売買春を中世から近代まで扱った展示は初めてです。江戸時代の公娼制が売買春に対する敷居を低くし、近現代の意識の基層をつくっています。近代になってより蔑視、差別が強まったのは、芸娼妓解放令により建前は「自由意志」で売春を行っているとみなされるようになったことも大きいと思います。

1948~49年に労働省婦人少年局が発行したポスター

1948~49年に労働省婦人少年局が発行したポスター

 

―戦後すぐ、労働省が男女同一労働同一賃金のポスターを出していたのには驚きました。  

 GHQ(連合国最高司令部)で担当だったミード・スミス・カラスは、女性の労働環境の改善に力を尽くしました。日本側にも、戦前からの女性活動家で初代労働省婦人少年局長の山川菊栄や谷野せつなど、「民主化」を受け止める素地があり、女性労働者のための政策が両方の力ですすめられていったのだと思います。

―女性のエンパワーメントがますます求められますね。ありがとうございました。

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