新日本婦人の会は、9月30日【抗議・要請書】「従軍慰安婦」などの記述をめぐる国の教科書への介入に抗議し、今こそ歴史の 真実と女性の人権にもとづく真の解決へと踏み出すよう、つよく求めます を内閣総理大臣らに提出しました。
内閣総理大臣 菅 義偉様
文部科学大臣 萩生田光一様
自由民主党総裁 岸田文雄様
【抗議・要請書】「従軍慰安婦」などの記述をめぐる国の教科書への介入に抗議し、今こそ歴史の 真実と女性の人権にもとづく真の解決へと踏み出すよう、つよく求めます
2021年9月30日
新日本婦人の会
会長 米山淳子
教科書会社5社が「従軍慰安婦」や「強制連行」「強制労働」などの記述について、現在使用中の中学・高校教科書での削除などの訂正を申請し、9月8日に文部科学省が承認したことに、厳しい批判の声が上がっています。一度検定を合格し教科書が途中で変えられるのは、極めて異例のことで、新日本婦人の会は、この異常な変更に対し、つよく抗議します。
もともと、日本軍「慰安婦」問題の教科書記述は、被害女性の勇気ある告発と、私たちの長い運動によって、1994年に高校日本史の全教科書に、1997年には中学校社会科の全教科書で「慰安婦」が記述されるようにしてきたものです。今、政府がやるべきことは、国際的にも問われ続ける歴史の事実に向きあい、高まる女性の人権、ジェンダー平等への願いにもとづいて教科書の内容を充実させ、二度と繰り返さぬよう、後世に伝えることです。
今回の変更で何より重大なのは、これが、安倍・菅政権による教育への許しがたい介入によるものだということです。
2006年、安倍自民党政権は多くの反対を押し切って、教育基本法から「教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し、直接責任を負って行われるべき」の文言を削除する大改悪を行いました。2014年には、教科書の検定基準を改悪し、「閣議決定その他の方法により示された政府の統一的見解」にもとづいた記述を合格条件にするという条項をもりこみ、管理統制をつよめてきました。それが、露骨に示されたのが今回の事態です。
問題の発端は、菅内閣が4月に「従軍慰安婦」や「強制連行」「強制労働」の用語は適切ではないとする政府答弁書を閣議決定したことです。そして、教科書会社への臨時の「説明会」を開き、記述変更を誘導し、強要してきたのです。政府による教育への不当な介入であることは明らかです。
驚くことに、9月17日、日本政府が国連女性差別撤廃委員会に提出した報告書には、「慰安婦」問題で講じた措置の質問に対し、「教科書は民間の著作物であり、学習指導要領に基づき、具体的にどのような歴史問題について取り上げ、どのように記述するかについては、教科書発行者の判断にゆだねられている」と記しています。検定で教科書の記述に介入し、訂正まで強要しながら、「民間の著作物」「発行者の判断」と言い逃れ、虚偽の報告をするなど、国際的に許されるものではありません。
また、「従軍」をとることで日本軍の関与や強制性を否定しようとしていることも重大です。
4月の閣議決定では、教科書に記述された「従軍慰安婦」という用語は「誤解を招くおそれがある」とし、「単に『慰安婦』という用語を用いることが適切である」としました。
1993年の「河野談話」は、「慰安所における生活は、強制的な状況の下での痛ましいもの」「当時の軍の関与の下に多数の女性名誉と尊厳を深く傷つけた」と、強制性と軍の関与を明確に認め、菅政権も含めて歴代自民党政府はこの継承を表明しています。
司法でも、「軍隊慰安婦」(2004年最高裁)、「従軍慰安婦制度」(1998年、山口地裁下関支部)などの表現が事実認定として使われ、今年6月には、女性たちがだまされて中国・上海の「海軍指定慰安所」に送られた事件の裁判の判決(1936年)概要も法務省から発表されています。
軍の関与と強制性には「誤解を招く」余地などありません。「強制連行を記述している文書はない」などの政府の主張も、すでに破綻していることは明らかです。
今、世界では、人権意識の高まりのなか、かつての植民地支配の責任を問い直す動きが広がり、奴隷貿易や先住民虐殺への謝罪、賠償にまで踏み込んでいます。
「慰安婦」問題は、日本が戦争中アジア太平洋各地に「慰安所」を設置し、植民地にしていた朝鮮や台湾、軍事侵略していた中国などアジア各地から女性を強制的に連行し、「性奴隷」とした重大な人権侵害であり、戦争犯罪です。真の謝罪とは、加害の事実を認め、被害者に真摯に謝罪し、賠償し、教育などを通じての再発防止にとりくむことです。
新しく自民党総裁に選ばれた岸田氏も、日本の侵略戦争を美化し、歴史を歪曲する日本会議国会議員懇談会に属してきた「靖国派」の一員です。日本政府が加害の事実を認めない姿勢を続けるなら、国際的な孤立をいっそう深めざるをえないでしょう。私たちは、グローバル化の中で国際社会の一員として生きる日本の子どもたちの未来への責任を果たすためにも、来る総選挙で政権交代への厳しい審判を下す決意です。
新日本婦人の会は、以下のことを求めます。
1、今回の訂正申請の承認を撤回すること。
1、「政府の統一的見解」にもとづく記述とするよう定めている検定基準を撤廃すること。
1、日本軍「慰安婦」など侵略戦争の加害と植民地支配の事実を正しく教科書に記述し、学校教育に位置づけるとともに、社会全体で加害の事実を共有し、記録し記憶を継承する努力を通じて、二度と同じ被害を繰り返さないこと。
1、日本軍「慰安婦」とされた被害女性が次々亡くなる中、急ぎ問題解決を図ること。
1、侵略戦争への反省から戦争放棄を誓った日本国憲法を守り平和外交を推進すること。
※データは以下よりダウンロード可能です。
【抗議・要請書】「従軍慰安婦」などの記述をめぐる国の教科書への介入に抗議し、今こそ歴史の 真実と女性の人権にもとづく真の解決へと踏み出すよう、つよく求めます