地球発 3月号より
新婦人国際部長 平野恵美子
1995年北京で開かれた第4回世界女性会議には、3万人のNGOが集い、政府間会合に女性たちの声と現状を反映させるべく活動しました。そこで採択されたのが、「女性の権利は人権」と明記した「北京宣言」と、「女性のエンパワーメント(*1)に関する行動計画」としての「北京行動綱領」です。貧困、教育、健康、暴力、武力紛争、経済、権力と意思決定への参加、地位向上のための制度的しくみ、人権、メディア、環境、女児の12分野を重大関心領域として、国連、政府、NGO・市民社会がすべきことを打ち出しました。以降、毎年3月の国連女性の地位委員会(CSW)で分野別に実施状況を検討、5年ごとに全体的な検討と新しい課題について議論をしています。北京から15年の今年は、第54回CSW(3月1~12日、ニューヨーク国連本部)を「北京+15」として開催、2月26・27日にはグローバルNGOフォーラムが開かれました。
グローバルNGOフォーラムに700人
救世軍ビルを会場に開かれたNGOフォーラムは、予定されていた分科会がなくなり、4つのパネル討論と1時間の地域会合という構成で、交流や議論の時間が少なく不完全燃焼の感が。合意の実施のスピードがあまりに遅く、各国政府の実施推進の政治的意思が問われていること、3年以上のNGOのはたらきかけで昨年、国連総会で合意された独立した女性機関の設置を確実に実現させようというのが、参加者の共通認識でした。女性の性の自己決定権に対する宗教的原理主義からの攻撃や、軍事化や、気候変動・自然災害の多発、経済危機が女性を深刻な状況においやっていること、女性が平等に政治や意思決定に参加し民主主義を発展させることが女性の人権保障に不可欠だという発言が印象的でした。女性国会議員の割合は現在、世界平均18.8%「北京行動綱領」がもとめる30%を達成しているのはわずか25か国です。北京会議の事務局長で汎アフリカ会議の初代議長を務めたタンザニアのガートルード・モンゲラさんは、「経済危機、気候変動や女性に対する暴力など増大する危機によって、北京の精神を死なせてはだめ。各国政府に北京行動綱領を実行する責任を果たさせましょう」と励ましました。
CSW~国連本部ビル改築による混乱も
今回のCSWには8000人のNGOが事前登録(実際の参加は138カ国から3400人程度)していましたが、国連本部ビルの改築作業にともない、登録手続きや会議の運営について不透明なことが多く、混乱が予想されていました。実際、登録手続きに5~8時間、従来のようにNGOに確保される部屋や会議文書の配布もなく、臨時の別館に入るには、別途、許可証が必要で、企画の日程や許可証の入手先の情報もないなど、NGOからはこれで「北京+15」といえるのかと怒りの声があがりました。
実務面以外でも、国連の“本気度”が問われるような場面が。節目のCSWを迎えるにあたって、会議の事務局でNGOとの調整に責任を持つ女性の地位向上部(DAW)の部長の後任が決まらないままでした。2005年の「北京+10」では開会式でコフィー・アナン事務総長があいさつしましたが、今回は国連総会として位置づけられた「北京+15」記念行事に潘基文事務総長の姿はなく、アーシャ・ローズ・ミギロ事務次長がメッセージを代読。続くCSW議長や各地域の代表のスピーチでは、次つぎマイクの前に立ったのは男性ばかり。6人目に主催国アメリカの代表としてメリル・フランク大使が登場したときには、「やっと女性だ!」との声があがりました。
「北京+15」の合意文書は、この間の合意の再確認と実施への決意表明を示す短い「政治宣言」のみ。バックラッシュ派に立ち入る隙を与えず、実施の推進の議論に集中するためです。決議が7本採択され(*2)、一つは「女性機関の設置によって国連の機構を強化する」ことをもとめるもの。国際女性デー祝賀行事でも、潘基文事務総長が各国政府に1日も早い設置を要請しており、具体化が注目されます。
今回のCSWは、秋の国連総会でのミレニアム開発目標(*3)の推進に関する議論にむけて、女性分野からの提言をつくることも任務の一つでした。貧困をなくし、すべての人が人権を享受できる社会をめざすミレニアム開発目標の達成には、女性の権利や地位向上が欠かせないことは共通認識となっており、ジェンダーの視点にたったとりくみがもとめられています。
*1 エンパワーメント:自らもっている能力と社会に貢献する能力を向上させること
*2 7本の決議の内容は、人質の解放、妊産婦死亡の根絶、女性機関の設置、女性性器切除の根絶、HIV・AIDS対策、女性の経済エンパワーメント。
*3 ミレニアム開発目標:①貧困と飢餓の根絶②初等教育③ジェンダー平等推進④乳幼児死亡率削減⑤妊産婦の健康向上⑥HIV/AIDSなどの病気予防⑦持続可能な環境の確保⑧開発のためのグローバル・パートナーシップ