地球発24時・3月号
新婦人国際部長 平野恵美子
第57回国連女性の地位委員会(CSW57)が、3月4日から15日、ニューヨークの国連本部で開催されました。今年の優先テーマは「女性と少女に対するあらゆる形態の暴力の根絶と予防」。私は、政府間会合を傍聴、前日のNGO会合はじめNGO主催のイベントに参加しました。今回初めて、戦時性暴力問題連絡協議会(連絡協議会)と日本軍「慰安婦」問題でワークショップを共催、ニューヨークでの国際女性デーのデモも経験しました。
(詳細は月刊「女性&運動」2013年5月号を参照)
草の根の力と国際連帯で「慰安婦」問題解決を
ワークショップは、日本が解決を迫られている「慰安婦」問題を、加害国の女性団体として発信しなければと企画しました。目的は、日本の政治状況やなぜ解決できないのか、あわせて日本の女性たちの運動を知らせ、日本政府に解決を迫る国際連帯をさらに強めること、第11回アジア連帯会議で決まった8月14日の「慰安婦」国際メモリアルデーについて、情報提供と国連デーにする可能性を探ること。8月14日は、1991年に韓国の金学順さんが初めて日本軍「慰安婦」の被害を名乗り出た日です。
パネリストには元国連安全保障理事会議長で、安保理が2000年に採択した「女性・平和・安全保障に関する決議1325」の実現に尽力したアンワラル・チャウドリー氏と、2000年に東京で開かれた女性戦犯国際法廷の国際共同代表インダイ・サホールさん。会場には日本はじめ各国から120人がつめかけ、特に若い女性の姿が目立ちました。
アクティブ・ミュージアム女たちの戦争と平和資料館(wam)の事務局長渡辺美奈さんの進行で私が日本の状況を報告、チャウドリー氏が「慰安婦」問題について決議1325の意義と活用の視点から、サホールさんはこの問題解決の運動が女性の人権を守り差別や暴力をなくす国際的な女性運動の一環であることを説明。靖国派を代表する安倍首相のもとで右翼の攻撃も活発化していますが、国際社会は女性の暴力や人権侵害をなくすには、被害者の声を聴き、謝罪と賠償、再発防止の教育、何より加害者の厳正処罰が必要というのが共通認識です。
チャウドリー氏は、「解決へ行動しないことは許されない。CSWの開会日に日本の女性団体がこのイベントを開いたことは、大きな意義がある」と評価、草の根の運動と世論の力で政府に迫る以外にない、私も全面的に応援すると激励も。日本の中学校教科書から「慰安婦」問題の言及が削除されたことについて、「きわめて重大なこと。歴史の事実を知らないまま高校や大学を卒業する若者たちは、教育を受けたと言えるのだろうか」と指摘。日本政府の態度が、国際社会では通用しないことがいっそう明確に。
参加者からも活発に質問が出されましたが、印象的だったのは、日本に留学中の韓国の女性が「日本に来て、この問題が理解されないことに怒りを感じていた。なぜなのかが、今日よくわかった。ありがとう」と涙ながらに語ってくれたこと。日本の私たちの声と運動をもっと広げていかなければと、痛感しました。
暴力根絶と予防へ、合意の実行を
CSW57の特徴は二つ。ひとつは、合意文書採択への努力です。昨年は合意文書を採択できませんでした。異例の事態に、初めて事前に政府とNGOの意見交換もするなどCSW57の成功へ努力が重ねられました。135カ国が発言、NGOも事前登録で6000人と多く、日本も国際婦人年連絡会などから約50人が参加。合意文書は、「性的権利」「包括的性教育」「有害な慣習」「早期婚」などの問題をめぐり難航とも言われましたが、最終日の3月15日に採択。ミチェル・バチェレUNウィメン事務局長は「歴史的快挙」とし、「行動指向型の合意、必要なのは約束の実行と責任遂行、UNウィメンはその先頭に立つ」と各国政府に行動を促しました。
ふたつめは〝ポスト2015〟の動きです。今回の議題に2015年に期限を迎えるミレニアム開発目標(MDG)のその後の目標についての議論もあり、来年のCSWは女性関連の分野について総括します。このテーマでの政府やNGO主催のイベントが目立ちました。国連のとりくみの焦点は〝ポスト2015〟。開発目標は政治、経済、社会のありかたにかかわるものです。ジェンダーの視点、現場の声を反映させて、誰もが自分らしく平和にくらせる社会をつくるものにしようと、女性NGOや人権団体、環境団体などが活動を進めています。女性への暴力も、貧困や雇用、社会保障、教育、ジェンダー平等推進などすべての問題とかかわっており、社会のしくみそのものを変えていくとりくみが必要です。カギは、女性の意思決定への参加。多様な声を生かす本当の民主主義を実現すること。まさに今、日本が問われていることではないでしょうか。