2010年6月24日 ジェンダー平等

国際会議「女性のエンパワーメント」開かれるヨーロッパから見た日本の女性(ヨーロッパと日本)2010年6月12日 東京から

国際会議で発言するデ・ラ・ベガさん(12日)

国際会議で発言するデ・ラ・ベガさん(12日)

在京のヨーロッパ 諸国大使館などの共催で国際会議が開かれました。この会議は、スペインがEU議長国になったことをきっかけに催されたもので、そのテーマは「女性のエンパ ワーメント 政治、経済、文化から探る、ヨーロッパと日本の女性のエンパワーメントの挑戦と可能性」。日本とヨーロッパ(スペイン、オランダ、ノル ウェー、ドイツ)から専門家が参加して議論しました。パネリストの一人に、国連女性差別撤廃委員会(CEDAW)の委員として昨年の第6次日本報告審議を 担当したスペインのソレダ・ムリージョ・デ・ラ・ベーガさん。スペインの男女平等事情とCEDAW委員として感じた日本の審議での印象を聞きました。

スペインの男女平等事情

ソレダ・ムリージョ・デ・ラ・ベガ スペイン・サラマンカ大学教授 国連女性差別撤廃委員会

ソレダ・ムリージョ・デ・ラ・ベガ
スペイン・サラマンカ大学教授
国連女性差別撤廃委員会

政権交代が行われた04年から08年、私は政府の男女平等事務局長を務めました。男女平等と女性の政治参加をすすめたいと、「男女平等法」や「ジェンダー暴力禁止法」の策定にかかわってきました。
私はもとも医学部専攻でしたが、ある精神科医と出会い、女性が直面する問題は個人の問題ではないことを知ったのです。「女性のうつ病は、女性が自分らしく生きられない。自分の運命を自分で決められない状態におかれていることが原因なのだ」との彼女の言葉は私の女性観を大きく変え、社会学部に転向し、ジェンダー問題の研究者になったのです。
「男女平等法」は、労働分野をはじめ、社会全般に及ぶもので、公職の選挙において政党の候補者は一方の性が40%を下回ってはならないと定めました。経済活動でも、政府との取り引きを行う企業については、役員を占める女性の割合を40%以上にするよう求めています。また、男性が父親としての家庭責任を実現できるようにするため、父親休暇を所得できる権利を付与したのも大きな特徴で、父親が家庭責任を負わないことは違法だとしています。
スペインでは4割の女性が暴力を受けており、深刻な問題です。女性を独立した人格と見ない男性が多いなか、男女の意識を変えるための教育が大切です。
スペインの現政権は、閣僚に男女同数の方針をとり(現在女性9、男性8)、サパテロ首相は福祉を重視しています。しかし、野党の保守政党からはコストが高いとして政策の変更を迫られています。企業や政府にとっては女性を家庭にとどめておく方が安上がりですから。経済危機を理由に女性の権利が後退させられる危険な動きです。
福祉国家は、女性の労働市場への参加にとっても重要です。働く女性を支える公的保育は基本的人権であり、女性の権利を求める運動、とくに政府のとりくみが重要なのです。政府が発するメッセージは世論への影響力があるのですから。この点を、昨年のCEDAWの審議でも強調しました。

日本政府、NGOへ

私も委員のひとりとして参加した昨年のCEDAWでの、日本報告の審議では、日本政府は具体的な答えを何度要求しても、あいまいな返答しかありませんでした。女性差別撤廃条約は発展途上国、先進国を問わず、すべての女性にかかわるということを理解する必要があります。日本でもスペインでも、女性は働きながら育児や介護、夫の面倒までみていますね(笑)。

日本軍「慰安婦」問題でも

日本軍「慰安婦」問題について、私は審議で「この問題の解決は、性的搾取、性暴力を終らせるための先例になる」と言いました。日本軍「慰安婦」問題はまさに、性暴力、ジェンダーにもとづく暴力です。被害者の声をきかなければなりませんし、政府の公式謝罪と賠償は欠かせません。さらに、あやまちを繰り返さないための歴史事実の教育が必要です。
女性が政治的意思決定の場に数多く加われば、政策の転換ができます。軍事同盟についても経済政策についてもです。新婦人のみなさんのレポートで軍事費削減を強調していましたが、軍事同盟の問題は税金の使い道という点で重要な課題です。
政府とは対照的に、日本のNGOのとりくみはすばらしく、私だけでなくCEDAWの全委員が、日本のNGOが、委員会にどのような勧告を出すべきかがよくわかるように、賢明に組織的に活動していることに驚きました。日本政府は次の報告に成果を盛り込めるようにならないといけませんね。(6月11日 東京・セルバンテス文化センターにて)

パートとフルタイムは同じ権利

オランダ

イナ・ブラウワー(弁護士、国会議員)
オランダでは、パートタイム労働者はフルタイム労働者と同じ権利をもち、年金、社会保障面でも平等が保障されています。1982年にパートタイム契約についての政府合意がなされ、1987年には35%、2008年には 58%、いま女性の70%がパートタイムで働き、平均週25時間労働です。労働不足が予想され、社会的調整が必要となっています。 男女がお互いに子育てや介護にたずさわり、休みもとれるよう週4日労働がいいと考えています。

経済対策もジェンダーの視点で

ドイツ

レギーナ・フライ(政治学者、ジェンダー事務所代表)
2000年の法律によって「ジェンダーの主流化」推進のため、政策導入や立法について男女平等への影響評価(ジェンダー・インパクト・アセスメント)が取り入れられました。計画段階、実施と平行して、さらに事後にも評価をおこないます。最近の経済危機対策についての評価は、①税額控除の拡大はジェンダー視 点でみると、低所得層が多い女性にとってプラスとなり、②エコロジカルプログラムは、高額なエコカーを買う層や男性むけとなり、その恩恵は男性に72%、女性に28%という結果で、女性にはマイナス評価となりました。

日本でこそ女性の活力を

イギリス

ヘンリー・トリックス(英国エコノミスト誌東京支局長)

CEDAWのNGO主催の説明会で、新婦人をはじめ婦団連のメンバーに質問するデ・ラ・ベガさん

CEDAWのNGO主催の説明会で、新婦人をはじめ婦団連のメンバーに質問するデ・ラ・ベガさん

パネル討論「経済における女性の活力」の司会をするにあたって、このテーマはとくに日本で重要だと思います。世界でもっとも富める国で、女性の地位がこれ以上低い国はないという状況です。企業のトップにおける女性の比率は、ノルウェーでは40%なのに日本ではわずか1.4%です。「ガラスの天井」(女性にとっての見えない壁)どころか、強固な「竹の天井」です。高齢化、少子化がすすむなか、全員が働かなければならない、女性が家庭にしばられず積極的な労働力にならなければならないときだからです。

国連女性差別撤廃委員会 勧告から1年…日本は

昨年の国連女性差別撤廃委員会が日本政府に厳しく勧告して約1年。とくに2年以内に報告が求められた二つの分野 ―民法改正、政治・雇用などの改善への特別措置は―。
政権交代で前進へ道をひらいたスペインとは対照的に、高まった期待を裏切る結果に。千葉法務大臣、福島担当大臣(当時)が繰り返し約束したにもかかわら ず、選択的夫婦別姓制度導入など民法改正は、国会に上程されず、女性団体は抗議の声をあげている。政治・雇用分野は世界最低レベルの110位(表)。「チ ルドレン」「ガールズ」など票集めに利用するやり方は女性を侮辱するとの批判も。重大なのは雇用分野。働く女性の53.3%に広がる非正規労働は「間接差 別」と女性差別撤廃委員からも指摘されたが、政府提案の派遣法改正案(継続審議)は使い捨て労働を温存したまま。雇用継続に不可欠な保育所不足も「詰め込 み」でしのぐ。参議院選挙での選択が日本の女性問題解決にも重要となっている。

GGIの全体と4分野ごとの注意

(備考)1.世界経済フォーラム “The Global Gap Report 2009”より作成

 日 本  オランダ 米 国  ポーランド
 GGI  101位  11位  31位  50位
 経 済 108位  49位  17位  71位
 教 育  84位  51位  1位  33位
 健 康  41位  75位  40位  41位
 政 治  110位  10位  61位  40位

 

日本のGGIの内訳

(備考)世界経済フォーラム “The Global Gap Report 2009”より作成

女性 男性 女性/男性 各分野の数値 順 位
GGI (Gender Gap Index) 0.645 101
経 済 0.549 108
教 育 0.985 84
  識字率(%) 100 100 1 1
   初等教育在学率(%) 100 100 1 1
   中等教育在学率(%) 98 98 1 1
   高等教育在学率(%) 54 62 0.88 98
政 治 0.065 110

 
GGI(ジェンダー・ギャップ指数)
GEM(ジェンダー・エンパワーメント指数)は女性の教育、社会進出などの達成レベルを示すが、GGIは男女格差に焦点をあてた指数。その国の社会・経済発展度に数値が左右されることなく、経済、教育、健康、政治4分野を対象に、男女比をもとに計算。

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