2010年9月30日 ジェンダー平等

女性差別撤廃条約日々の生活に生かされてこそ

国連女性差別撤廃委員会委員 ドゥブラヴカ・シモノビッチさん

ドゥブラヴカ・シモノビッチ(クロアチア) 2003年から国連女性差別撤廃委員会(CEDAW)委員。法学博士(クロアチア・ザグレブ大学)、コロンビア・ロースクール(アメリカ)客員研究員。06年から08年、女性暴力廃絶欧州評議会特別対策本部のメンバーとして各方面で活躍中

ドゥブラヴカ・シモノビッチ(クロアチア)
2003年から国連女性差別撤廃委員会(CEDAW)委員。法学博士(クロアチア・ザグレブ大学)、コロンビア・ロースクール(アメリカ)客員研究員。06年から08年、女性暴力廃絶欧州評議会特別対策本部のメンバーとして各方面で活躍中


国連女性差別撤廃委員会(CEDAW)のドゥブラヴカ・シモノビッチ委員が、新婦人も参加する日本女性差別撤廃条約NGOネットワーク(JNNC・山下泰子代表世話人 45団体)の招きで今夏来日(8月27日~9月5日)。二度にわたって日本報告の審議にたずさわり、日本の事情をよく知る人です。世界から見た日本の課題はなにか――、精力的に語りました。

(詳細は「月刊女性&運動」2010年11月号)

差別法、なぜ放置!?

「日本の民法にあるような差別的な条項は、今では世界的にほとんどありません。町並みも若もののようすもヨーロッパとほとんど変わりないのに、結婚最低年齢が男女で違う問題、女性のみに課せられている再婚禁止期間、夫婦別姓の問題など、なぜこのようなことが長く放置されているのか、とても不思議です」――。シモノビッチさんは、国会内で開かれた記者会見(9月2日)で率直に語りました。
日本が女性差別撤廃条約を批准(1985年)して25年、日本報告の審議のたびにくり返し求められてきた民法改正問題。

民法改正を求める国会前行動

民法改正を求める国会前行動


「日本に足りないのは、女性差別撤廃条約が法的拘束力をもったものであるという認識です。日本国憲法98条は、すべての国際条約は、国内法の一部として法的効力を有するとの規定があります。変化をおこしていくうえで、この条約と勧告を、有効なツール(道具)として活用してほしい。条約は国内法の一部なのだから、それをすすめる義務があると、国会に強く働きかけるべきと、政府関係者にも伝えました」
さらに、「諸外国の経験に学ぶこともよいのではないでしょうか。ヨーロッパ諸国も、婚外子(法律婚でない夫婦の間に生まれた子ども)を差別したり、姓の選択に不平等があるなど日本と同じ課題を乗り越えてきました。国家は、個々人が選択し決定する権利を法律で保障し、法律は、市民であれば、子どもでも、大人でも平等に扱わなければならない。それが国家の利益になるという立場で変えてきたのです。夫婦別姓制度について言えば、国家がなぜ一方の性に基づく姓だけを保護するのか疑問に付されるべきです」。自らは夫の姓を名乗っていますが、夫の母は三つ、娘たちは二つのファミリーネーム(姓)を名乗っていることなどを紹介。「これは個人、夫婦にまかされる問題であって、国家が介入すべき問題ではありません」と強調しました。

フォローアップって?

参加者の質問に耳を傾

参加者の質問に耳を傾ける


シモノビッチさんは、最近導入された新しい手続き、フォローアップ(後追い)について、政府関係者や各地の講演で、特に力を入れて説明しました。
2008年、女性差別撤廃委員会は各国の報告の審議を経て政府に出す「総括所見」の中に、2年以内に追加情報を求める事項(2項目以内)を含めることとするフォローアップ手続きを定めました。条約の履行上、主な障害になっているもので、2年以内に実現可能なものが選ばれます。日本は09年の「総括所見」で、民法改正と、あらゆる分野での女性の参加を強める暫定的特別措置の2つが、フォローアップ項目とされました。政府は措置に関する情報を2年以内に委員会に送付しなければなりません。
シモノビッチさんは、このフォローアップの担当者です。「フォローアップで私たちが注目しているのは、目標だけではなく、目標に対してどのような日程、テンポで達成していくのかということです。政府がとる措置はどのような措置も歓迎しますが、確実に結果がともなうものでなければなりません。前進がないと委員会が判断すれば、何度でも追加的な情報を締約国に求めていきます」と話しました。
条約違反の法律をいつまでも放置することは、もはや国際社会の中で許されないのです。
滞在中は、国立女性教育会館(埼玉県)や東京、大阪、福島で講演し、女性たちと交流を深め、さらに、内閣府の玄葉男女共同参画担当大臣(当時)や法務省の小野事務次官、外務省の西村政務官(当時)と懇談しました。
日本政府の、フォローアップ2項目の報告期限(2011年8月7日)1年を切っています。こうしたタイミングでの今回の来日は、政府への有効な働きかけとなりました。
NWECフォーラム・ワークショップ「国連女性差別撤廃委員と語る日本の課題」(埼玉・国立女性教育会館)で (8月28日)

NWECフォーラム・ワークショップ「国連女性差別撤廃委員と語る日本の課題」(埼玉・国立女性教育会館)で (8月28日)

社会変えるツールに

条約を日本社会に根づかせるため、次のように話しました。
「条約は単なる宣言ではありません。女性差別撤廃条約は、家族責任と仕事の責任を平等に分担していくことで、女性、男性双方にとってよりよい社会をつくっていくためのものです。法律家は、国内の裁判などで条約を使ってください。また、政府、国会議員、NGO…、それぞれが条約の条文を使って、協力して条約と勧告のすべてを実施していくべきです。そうした成果が、日本の女性の日々の生活に反映されることを望みます」。
条約に定められた権利を侵害された個人やグループが女性差別撤廃委員会に直接通報できる「選択議定書」を、日本政府が一日も早く批准することも、条約の実効性を高める上で重要であることを強調しました。
 

一覧へ戻る