2024年9月25日 ジェンダー平等

女性差別撤廃条約実施状況に関する第9次日本政府報告審議に向けた新日本婦人の会のレポート

 

 

 新日本婦人の会は、2024年10月17日の国連女性差別撤廃委員会による第9次日本政府報告審議に向けて、委員会が提示した課題リストの中から特に重視したい項目について、日本の女性の現状を明らかにし、日本政府がとるべき行動を提起したレポートを提出しました。

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女性差別撤廃条約実施状況に関する

第9次日本政府報告審議に向けた新日本婦人の会のレポート

2024年9月7日

新日本婦人の会

 

 新日本婦人の会(新婦人)は1962年に創立、全国で核兵器廃絶、ジェンダー平等、女性・子どもの権利、平和のための世界の女性との連帯を目的に掲げ活動している女性NGOである。

 

1.はじめに-コロナ禍、災害多発の日本で

 第7・8次日本報告審議から8年、新型コロナウィルスの世界的大流行、とりわけ日本では災害も多発し、根強い性差別と一体の新自由主義の悪政が問われるなか、ジェンダー平等への意識の高まりと、連帯した行動が社会を動かしている。この間、事業所に男女賃金格差の公表が義務づけられ、「同意なき性交は犯罪」とする刑法改正が実現し、LGBTQや同性婚など多様な性への攻撃に対する抗議、長年隠蔽されてきた芸能事務所、自衛隊など各分野での性暴力・ハラスメントの告発が相次ぎ、根絶を求める動きが広がっている。

 コロナ禍では、女性はまっさきに職を失い、家庭内暴力や性暴力の増大、過重なケア負担などに直面し、女性の自殺増加など深刻な事態となった。温暖化の進行で命が脅かされるほどの酷暑や豪雨に加えて地震が多発するなか、災害大国日本での驚くべき防災対策の遅れ、避難体制での人権とジェンダー視点の欠如が浮き彫りになっているが、依然改善されない。

 2024年のジェンダーギャップ指数で日本は146カ国中118位と、引き続き先進7カ国中最下位である。この30年、政府が財界戦略に沿って非正規化や民営化、社会保障の制度改悪をすすめてきたことが、女性の自立を阻み貧困を拡大している。家父長的な家族像を押しつける右派勢力とカルト集団が一体に、選択的夫婦別姓や同性婚などジェンダー平等政策を妨害していることが、あらためて明るみになった。さらに今、戦争放棄をうたう憲法9条のもとで許されない大軍拡をおしすすめ、軍事費は過去最高を更新する一方で暮らしや教育、福祉、被災地支援は後回し、人権や自由を制限する悪法を次々成立させている。こうした事態に対し、どの分野からもこのままでいいのかと声が上がり、女性たちは」「女性の権利を国際基準に」と運動を強めている。

                                                                    

2.選択議定書の批准

 選択議定書の批准について政府は、早期締結へ真剣な検討を進めると繰り返し述べながら何も進んでいない状況に、女性たちはNGO「女性差別撤廃条約実現アクション」を立ち上げ、73団体が行動を強めている。新日本婦人の会はその一員として、この8年間に50万4300を超える署名を積み上げ、国に批准を求める意見書を採択した地方議会は280(2024年9月7日現在)となっている。

 

○選択議定書のすみやかな批准を決断し、その計画と展望を示すこと。

                                         

3.立法枠組みにおける差別の定義

 政府に差別の包括的な定義の導入を求めた委員会の勧告を実施する意思は見られず、大臣による「セクハラという罪はない」との発言まである。何が差別にあたるのかを明確に定義し、あらゆる形態の差別を禁止する法律がないことが、差別を温存し、バッシングやヘイトスピーチの横行を許している。

                                        

○ハラスメント禁止を含めた包括的差別禁止法をすみやかに制定すること。

○女性差別撤廃条約と勧告について政治家や国会議員、公務員、司法関係者の研修、教育やメディア関係者への周知徹底をおこなうこと。

                                        

4.選択的夫婦別姓制度

 夫婦同姓を法律で強制しているのは日本だけだが、政権党である自民党の妨害が露骨になっている。男女共同参画第5次計画の案文から、自民党内からの強い反対で「女子差別撤廃委員会の総括所見なども考慮」「選択的夫婦別氏制度」の文言が削除された。背景にカルト集団や右派の強い要求がある。NHKの2024年4月の調査では、選択的夫婦別姓に62%が賛成し、20代、30代は8割にのぼっている。6月には、日本経団連が初めて選択的夫婦別姓の早期実現を求める提言を発表するなど、社会的合意は広がっている。

 新婦人は、1996年に法務大臣の諮問機関である法制審議会が選択的夫婦別姓導入を答申して以降一貫して請願行動を積み重ね、独自や共同のとりくみで意見書を決議した地方議会は2024年7月現在、403にのぼる。

 

○選択的夫婦別姓制度導入へ、すみやかに民法改正をおこなうこと。

                                                  

5.固定観念(ステレオタイプ)と有害な慣行

 2021年、元首相の東京五輪・パラリンピック組織委員会会長が、女性はわきまえるべきものとの暴言で辞任に追い込まれた。その後も与党政治家による女性差別の暴言が続き、そのたびにセクハラや性暴力を許さないと抗議の声が上がっている。

 新婦人は2017年~2018年、コンビニエンスストアからポルノ雑誌(成人向け雑誌)の撤去、販売中止を大手3社に申し入れ、全国で店舗にはたらきかけた。2019年には大手3社が販売中止を表明したが、その後出版業界からの圧力で復活したことを受け、2024年2月から4月、再び全国で緊急調査にとりくみ、3241店舗を訪問し要請した。表紙に女性の半裸や水着姿、煽情的な見出しが掲載された雑誌が子ども向けの絵本や、マンガ本と並んで置かれているなどの実態は、環境型セクシュアルハラスメントであり、性の商品化や性暴力の温床となっている。メディアや広告、SNSなどで女性や少女を性的対象として強調し描くことは、「表現の自由」などいかなる理由でも許されない人権侵害である。

 少子化対策の名で、国が家族のあり方や女性の生き方にまで介入する動きが強まっている。国の主導により中学・高校・大学生などを対象にした結婚や出産の適齢期、子どもの人数や3世代同居など特定の家族像を推奨する教材を取り入れたり、子育てや介護での家族の役割を強調した「家庭教育推進条例」の制定や婚活支援事業をおこなう自治体が生まれた。政府が検討していた結婚で地方に移住する女性への支援金支給はきびしい批判にさらされ、事実上撤回に追い込まれた。

 

○公職者による差別的な言動にきびしく対処し、家族のあり方や家庭教育への国家介入をやめること。

○教育やメディア、家庭、地域などあらゆる場で人権尊重、性別役割分担意識や差別をなくすとりくみを強めること。

 

6.ジェンダーに基づく女性に対する暴力

 戦後27年間米軍の占領下におかれ、現在も在日米軍基地の7割が集中する沖縄では、米兵による性暴力や事件が後をたたない。1995年の米兵による少女暴行事件に県民・国民の怒りが湧き起り、日米両政府は97年、事件や事故の防止やすみやかな通報などに合意した。しかし、日本政府が昨年12月の沖縄での米兵による少女暴行事件をはじめ、各地での事件を隠蔽していたことが明らかになった。基地がある限り苦しみは続く、国民の安全や人権より軍事同盟を優先するのかと、怒りの声が高まっている。

 2018年、財務次官のセクハラ行為に対して抗議と罷免を求める行動が全国でいっせいに起こった。この間、電車内での痴漢は犯罪との認識が高まり、実名での性被害の告発とそれに連帯するフラワーデモが全国に広がり、元舞妓による伝統文化に名を借りた未成年の少女への虐待、搾取の告発もされている。

 女性支援新法ができたものの、居場所のない女性や少女への支援活動は民間まかせで、こうした活動へのバッシングに国会議員や地方議員まで加担している。

 

○米兵による性犯罪の根絶へ、通報手続きを厳守するとともに、日米地位協定の抜本的改定、米軍基地の縮小・撤去、日米安保条約廃棄へとすすむこと。

○性犯罪の公訴時効の撤廃・延長、厳罰化など、刑法のさらなる改正をおこなうこと。

○各都道府県の性暴力被害者支援センターは、交付金増額、正規職員の増員と処遇改善など公的責任で拡充し、民間シェルターや女性支援団体への財政支援も強化すること。

○SNS上を含むヘイトスピーチに対して毅然と対応すること。

                                          

7.「慰安婦」

 政府は、侵略戦争や植民地支配の事実を認めず、女性を性奴隷にした「慰安婦」問題が戦争犯罪であり重大な人権侵害であるとの認識が全くない。各国における市民による「慰安婦」記念碑の設置や、被害女性の裁判に非難と妨害を続けている。かつての宗主国が植民地支配を反省し謝罪や賠償、略奪した文化財の返還などをおこなっていることとは対照的である。

 政府は2014年、政府の見解を記述するよう教科書検定基準を改悪し、2021年には、「従軍慰安婦」や「強制連行」「強制労働」の用語を使わないようにさせる閣議決定をおこなった。

 

○2016年の勧告にしたがい事実の認定、公式の謝罪と賠償など被害者が受け入れられる解決を急ぎ、被害女性の尊厳と人権を回復すること。

○政治家や公人の事実を否定する言動に対して、反駁と厳正な対処をおこなうこと。

○2014年の閣議決定を撤回するとともに教科書への不当な介入をやめ、加害の事実の記述復活と充実、歴史の事実を記憶、記録、継承する施策をつよめること。

                           

8.政治的及び公的生活への参加

 2018年に成立した政治分野における男女共同参画推進法は、選挙の際に男女の候補者数が「できる限り均等」となるよう政党に努力を求めるもので、強制力はない。2021年の改正でも、候補者比率の目標設定は努力義務のままとされ、その後おこなわれた衆議院議員選挙では、女性の立候補者は全体の17.7%、当選者は9.7%にとどまった。政府が掲げる女性立候補者35%という目標に対し、自民党8.2%、公明党9.0%と与党の目標が極端に低い。

2023年の統一地方選挙では、市議会での女性議員比率が22.0%に増える一方、女性議員ゼロ14%の地方議会が14%にのぼる。

 

○政治分野における男女共同参画推進法を、目標設定義務や罰則規定を明記するなど、より実効性あるものにすること。小選挙区制を廃止し、パリテやクォータ制の導入も含め、比例代表を中心とした選挙制度へ抜本的に改革すること。

○地方議会における女性議員比率引き上げへ、条例や議会会則、倫理規定の制定や改正、ジェンダー研修をさらにすすめること。

                                         

9.教育

 多様な性の尊重を求める声が広がっているが、性教育は必修教科として学校教育に位置づけられていない。性に関する基本的な知識や権利を十分に学べず、若年妊娠や性暴力、さらにはSNSなどでの多様な性へのバッシングにもつながっている。内閣府の調査(2023年6月)では、16~24歳の4人に1人以上が何らかの性暴力被害を受けている。

 中学や高校の制服を自由に選べるようにしてほしいと生徒自ら声を上げ、ジェンダーレスの制服導入が広がっている。髪の毛の色や長さ、下着や靴下の色など細かく規定した不合理な校則についても批判が高まり、2021年に文科省が全国の教育委員会に見直しを通達した。

 

〇学校教育に科学と人権にもとづく包括的性教育をカリキュラムとして位置づけるとともに、乳幼児期から成人まで、すべての年齢で推進すること。

〇性の多様性やリプロダクティブ・ヘルス・ライツなど、ジェンダー平等を学ぶ機会を、家庭や学校、社会のあらゆるところで推進すること。

                                        

10.雇用

 日本の女性雇用者の53%が非正規雇用者で平均賃金は男性の59%と、男女賃金格差は深刻である。2022年、男女賃金格差の公表が義務付けられたが、大企業や経団連役員企業などで格差が大きく、正規・非正規ごとの男女別の数値の公表はされないなど、不十分である。

 正規でも男女別コース雇用管理によって間接差別がシステム化されている。公務においても、「会計年度契約職員」として低賃金と不安定な雇用契約を押し付けている。女性の家事育児時間は、男性の5.5倍で、男性の長時間労働の比率が高い国ほど出生率が低いことを見れば、少子化対策としても長時間労働の是正が必要である。

 

〇男女賃金格差是正へ、正規雇用化の推進と、罰則を含めた賃金是正措置の法制化をおこなうとともに、非正規雇用の処遇の底上げへ、最低賃金を全国一律時給1500円以上にすること。

〇仕事と家族ケアの両立へ、1日7時間週35時間労働とし残業規制を強化すること。

                                        

11.健康

 コロナ禍のもと、「生理の貧困」が社会問題となった。新婦人は、貧困対策にとどまらず、女性の権利として学校や公共施設のトイレに生理用品の常備をと、自治体や教育委員会、学校に要請し各地で実現させている。生理のタブーを打ち破るとりくみとして注目され、高校生自身の活動も始まっている。政府も調査にふみ出したが、財政支援は恒常的な制度とするには不十分である。

 

○すべての自治体で学校や公共施設のトイレに常備できるよう、国による予算措置を拡充すること。

                                        

12.経済的・社会的給付

 どの年代でも女性の貧困が深刻となっている。低賃金は低年金となり、老齢厚生年金の男女差は年額70万円を超えている。自営業者やフリーランスはさらに低年金、無年金となっている。社会保障削減が続き、高齢者医療費や介護保険利用料の自己負担が増えている。

 女性が多いケア労働者の賃金は、産業の平均と比べて月額で6万円以上低く、介護の現場では人手不足が深刻である。新婦人が2023年におこなった介護保険利用者・家族への調査では、介護保険利用者の介護と医療にかかる費用が年金支給額以上を上回る事例が多数見られた。2024年から、在宅訪問介護の介護報酬が減額され、事業所の倒産が相次ぐ事態に、見直しを求める声が高まっている。

 

○全額国庫負担による最低保障年金制度を導入すること。

○医療や介護など社会保障を拡充し、ケア労働者の処遇改善、公務員の増員と正規化をすすめること。

 

13.結婚および家族関係

 f2024年、離婚後共同親権を導入する民法改正がおこなわれたが、DV被害者女性の「離婚すること自体大変なのに、元配偶者が支配し続けることになる」などの訴えをはじめ、反対の声と運動が広がった。現在28%にとどまっている養育費の支払いについても、国による立替払いなどの対策はないままである。何より、子どもの意見表明権は確保されず、離婚の調停をおこなう家庭裁判所はいまでも人員不足のうえに、裁判でDVを証明できず共同親権を命じられる可能性もある。

 

○民法の「親権」に関する規定を見直し、子どもの権利を守る親と社会の責任を明確にすること。

○2026年の施行までに、DV被害女性や子どもの意見を反映したガイドラインを作成し、徹底すること。

 

 

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女性差別撤廃条約実施状況に関する第9次日本政府報告審議に向けた新日本婦人の会のレポート

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