2009年8月27日 ジェンダー平等

国連女性差別撤廃委員会 日本の実施状況を審査(7月20日~8月7日 ニューヨーク)

新日本婦人の会国際部長 平野 恵美子

条約批准国として女性差別の解決を

日本審査のようす(国連本部の会議室)

日本審査のようす(国連本部の会議室)

国連女性差別撤廃委員会(CEDAW)第44会期(7月20日~8月7日、ニューヨーク国連本部)で、日本における女性差別撤廃条約実施のとりくみ状況が審査され、私は新日本婦人の会として傍聴しました。このほど審査の結果についての「総括所見」(8月7日付)が発表されました。「総括所見」の特徴と、実際の審議のようすなどについて報告します。

新婦人のとりくみ

新婦人は、日本政府の第6回報告書の作成に向けて「報告書にもりこむべき意見」(「女性&運動」2006年3月号に掲載)を発表、今年4月15日には「女性差別撤廃条約実施状況に関する第6回日本政府報告に対する新日本婦人の会のレポート」(「女性&運動」2009年7月号および新婦人ホームページに掲載)を、審査に向けての英語版を6月1日付で女性差別撤廃委員会(CEDAW)に送付しました。独自の活動に加えて、日本女性差別撤廃条約NGOネットワーク(JNNC)のメンバーとして、事前の準備や共同レポートの作成、審査の傍聴とその前後のとりくみに参加しました。
政府報告書や新婦人などNGOの報告書、総括所見などCEDAW第44会期・日本審査に関する文書は、CEDAWのホームページに掲載されている (英語、フランス語、スペイン語のみ)。http://www2.ohchr.org/english/bodies/cedaw /cedaws44.htm
 
女性差別撤廃条約の全文やこれまで出されている日本政府報告書の日本語版は、男女共同参画局のホームページへ。http://www.gender.go.jp/teppai/index.html
 

日本政府の姿勢を根本から問いただす「総括所見」

前回2003年の「総括所見」で出された「懸念と勧告」は22項目、今回は48項目におよびました。前回の勧告がほとんど実施されていない現状をきびしく指摘し、条約の批准国として国内法や国の政策の根本に女性差別撤廃条約をすえるようもとめる「総括所見」は、日本政府に対し、女性が現実に直面する差別を解決する政治的意思を強く迫る内容です。

JNNCによるCEDAW委員への説明会。婦団連を代表し所得税法56条や社会保障について発言する筆者(右)

JNNCによるCEDAW委員への説明会。婦団連を代表し所得税法56条や社会保障について発言する筆者(右)

「総括所見」は、「序論」「肯定的側面」に続いて政府がすべきこととして、「主要な懸念分野と勧告」「議会」「前回総括所見」「差別的法規」「条約の法的地位と可視性」「差別の定義」「国内人権機関」「女性の地位向上のための国内本部機構」「暫定的特別措置」「固定的観念」「女性に対する暴力」「人身取引と売買春搾取」「政治的・公的分野への平等な参加」「教育」「雇用」「家庭と仕事の両立」「健康」「マイノリティー女性」「弱い立場の女性」「北京宣言と行動綱領」「ミレニアム開発目標」「他条約の批准」「周知」「総括所見へのフォローアップ」「次回報告書期限」の項目をたてて、勧告をおこなっています。
まず、「主要な懸念と勧告」の項で、日本政府は「条約の全条項を系統的かつ継続的に実行する義務がある」とし、この総括所見をすべての関係省庁、国会、司法官に徹底することをもとめています。さらに、2003年の勧告の実行のために「あらゆる努力をおこなう」よう勧告。条約上の義務を果たす責任は政府にあること、政府は条約が法的拘束力をもつもっとも重要な人権法であることを認識し、ただちに条約を国内法にとりいれ、法律関係者や公務員に条約の理解を徹底し、「選択議定書」の批准を検討するよう勧告。国内法に差別の定義がないことが条約の完全実施を阻害しているとして、法律で差別を定義することも要請。これらすべてについて、「次回報告すること」としています。政府に対し、条約はただの紙切れではない、法律として活用すべきものとの認識をもち実施の先頭に立つことを迫るものです。
注目されるのは、「固定的観念」の項で、女性の人権へのとりくみにたいして政府内に「バックラッシュ」があることへの懸念が表明されたこと。閣僚などによる差別発言、メディアや教科書の問題も指摘されています。「教育」の項でも教育基本法の「改正」によって男女共学が削除されたことをとりあげ、復活をもとめています。新婦人のレポートでは、差別撤廃のとりくみがすすまない原因として「バックラッシュ」の問題を指摘しましたが、「総括所見」もこの問題について政治の責任をただしているといえます。
日本軍「慰安婦」問題でも、政府に「永続的な解決」として「被害者への賠償」「加害者処罰」「犯罪事実の教育」を勧告しています。同時に性暴力は女性の人権侵害であり、きびしい処罰が必要とし、被害者の保護の視点が弱い刑法の見直しをもとめています。
 

民法の差別的条項の撤廃と雇用と政治的・公的分野への女性の参加引き上げが重点に

「総括所見」は「フォローアップ」の項で、勧告の中でも特に急がれるものについて2年以内の報告を要請していますが、今回、民法の差別的条項の見直しと、暫定的特別措置の採用が位置づけられました。民法については、結婚の最低年齢を男女とも18歳にする、女性にだけある再婚禁止期間の撤廃、選択的夫婦別姓の導入、民法や戸籍法の婚外子にたいする差別規定の撤廃をもとめるもの。暫定的特別措置は、雇用や政治・公的分野において意思決定レベルまで女性の参加を引き上げ、実際上の平等を達成することをもとめています。根強い賃金格差や女性が働き続けることが困難な現状が反映されています。
 

共同さらに強めて、女性差別の撤廃へ

「総括所見」の「序論」は日本のNGOの参加を評価し、NGOの積極的な貢献を日本政府が認めていることを歓迎しています。女性差別撤廃への共同の場として2003年に結成されたJNNCには、新婦人のような条約のあらゆる分野にかかわる団体や、個別の課題にとりくんでいる団体、個人が参加。JNNCからの傍聴は、前回16団体57人から今回は20を超える団体から84人と、過去最多でした。
それぞれのちがいを尊重し、合意にしたがって行動することを徹底したJNNCの経験は、ネットワークのあるべき姿を示しているといえます。女性差別の根絶は、すべての人の人権が守られる社会へ、社会のありかたそのものをかえるとりくみです。CEDAWの勧告の実行へ、共同をいっそう広げて運動を強めていきましょう。
 

審議を傍聴して

私はこれまで、国連女性の地位委員会(CSW)の傍聴やNGO会合に参加してきましたが、CEDAW の審議は今回が初めて。女性の人権・地位向上と平等の実現への国際合意をつくる政府間交渉の場であるCSWと、独立した専門家が集中的に審査し「勧告」によって条約の実行をもとめるCEDAWのちがいを実感しました。CEDAW委員から出される質問や意見は具体的で、不十分な回答にはさらにつっこんで問い ただす、迫力あるものでした。NGOから出されている報告をよく読み、事前のやりとりを生かしていることも感じられました。
2003年に勧告されながら実行されない「民法改正」について「なぜか」との質問に、法務省が「1996年の改正をもとめる答申をホームページで紹介、その後の世論調査 の結果を慎重に見守っている」と繰り返し回答。委員は「世論調査によって政策を決めるのではない、明らかに条約違反なのだからそれを正すのが先決」とピ シャリ。日本軍「慰安婦」問題では、スペインの委員が質問、「問題解決は政治的意思の問題、性的搾取を終らせることにもつながる」と。CEDAW副委員長をつとめる中華婦女連の鄒暁巧国際部長も「国際機関が繰り返し指摘している問題、アジア女性基金では不十分なのである。日本はこの問題から逃げずに、正面から立ち向かってほしい」と発言。「日本政府は女性差別撤廃条約を国内法を拘束するものと考えているのか」「非正規の7割が女性という事実そのものが、間接差別ではないのか」など、各委員から現状に対する政府の認識や差別撤廃にとりくむ姿勢がさまざまに問われましたが、それらがすべて「総括所見」に反映されたと思います。
 

一覧へ戻る