自民党作成の「改憲ビラ」について、そのごまかしと問題点をファクトチェック(事実検証)します。
安倍首相と自民党は、地元で「改憲」の動きをつくろうと、国会議員にA4判のビラを配り、宣伝をつよめています。今回の統一地方選挙でも政策パンフレットに「憲法改正」を正面から掲げ、「取組を更に強める」と明記。自民党作成の「改憲ビラ」について、そのごまかしと問題点をファクトチェック(事実検証)します。(新婦人しんぶん2019年4月4日号より)
Q改憲回数0回は異常?
→Aいいえ、それは誇りです
ビラは見出しに「憲法改正を目指します」と二度書きし、各国の改憲回数のグラフを載せています。憲法改正が必要かどうかは、その国の国民が決めることです。
日本が72年間、憲法を一度も変えなかったのはなぜ?
日本国憲法は、世界でいま主流になっている人権の上位19項目をすべて満たす先進的なものです。
社会保障や教育を受ける権利、両性の平等をはじめ31カ条にわたる豊かな人権規定と9条の平和主義を国民がつよく支持し、改憲の必要がなかったのです。
いま求められているのは、世界に誇る日本国憲法を実現する政治です。ビラの改憲回数103回のインドは出典がわかりません。
Q国民は国会での憲法論議を期待?
→Aそもそも改憲を望んでいません!
ビラの下には、「改憲論議に期待する」が多いという読売新聞の世論調査を引用しています。安倍首相が「9条に新たな条文を追加して自衛隊を位置づける」と突然発表したのも、読売新聞でした。権力を監視するメディア本来の役割を放棄しています。
どの世論調査でも、安倍首相のもとでの改憲に反対が多数を占め、のぞむ政策で「改憲」はいつも最下位です。国民の声を踏みにじって、首相と自民党が強引に国会の憲法審査会を開いて、国会発議をねらうなど、ぜったいに許されません。
1.自衛隊の明記
「災害救助」は二の次、戦争する軍隊に
ビラには、「①合憲という憲法学者は少ない現状です。②中学校の大半の教科書(7社中6社)が自衛隊違憲論を記載しています」とし、「Q&A」では、自衛隊が「多くの国民の支持を得ているにもかかわらず」、①や②などの「自衛隊違憲論」があるので、その解消のために改憲が必要、自衛隊を明記したとしても「これまでの憲法解釈について全く変えることなく」などと述べています。
しかし、自民党が憲法に明記するのは、「災害救助」の自衛隊ではなく、海外で戦争する自衛隊です。安倍政権は戦争法(安保法制)の強行で、歴代の自民党政権が「憲法上できない」としてきた集団的自衛権の行使を容認し、海外派兵への道を開きました。そんな自衛隊を、戦争放棄(9条1項)、戦力の不保持と交戦権の否認(2項)を掲げた条文に照らして、「違憲」と言う憲法学者が圧倒的に多いのも、中学校教科書が自衛隊の存在が違憲だと考える議論を紹介するのも、当然のことです。
また、9条2項に軍隊としての自衛隊が明記されれば、いまある条項は死文化し、災害派遣は二の次、日本社会全体が軍事優先で国民の自由や人権も制限されることになります。
2.緊急事態対応
自然災害は口実、人権や自由なく独裁も
ビラには、「わが国は有史以来、巨大地震や津波が発生。南海トラフ地震や首都直下型地震などの最大規模の地震や津波などへの迅速な対応が求められています」と書かれています。しかし、自然災害は、災害対策基本法などで対応できます。
自民党が自然災害対応をいうのなら、兵器の爆買いではなく、防災・減災、復興に税金を使うべきです。 「Q&A」では、緊急事態対応は「大規模自然災害等に限定する」とありますが、「等」が要注意です。「等」の中には「武力攻撃災害」=戦争、内乱などが含まれているのです。国民には「戦争のため」とは言えないため、自然災害を口実にしていますが、9条改憲とセットで緊急事態条項の導入を主張してきたのが自民党。個人の権利・自由が大幅に制限・侵害され、独裁を生む危険をはらむ重大な改憲をねらっているのです。
3.合区の解消・地方公共団体
身勝手な改憲理由、選挙制度や区割りは法律問題
ビラには、「人口の減少と東京一極集中が進む中、①人口の少ない県に配分される定数の削減、②鳥取・島根、高知・徳島では各県から一人ずつ参議院議員が選べない、③更なる合区、④地方の声が政治に反映されにくくなる、などの問題が指摘されています」とあります。
しかし、国会議員は、地域代表ではなく国民の代表です。県単位で議員定数を定めるものではないのです。選挙制度や選挙区割りは法律問題であって、憲法を変える必要はありません。
自民党は昨年7月、参議院「合区」で議席を失う自党の議員を救済するため、一方的に公職選挙法を改悪しました。都合のいいときだけ「改憲」の理由に持ち出すなど、とんでもありません。
4.教育充実
改憲は必要なく、予算つければ今すぐ実現!
ビラには、「誰もが家庭の経済事情に左右されることなく、質の高い教育を受けられる社会が求められています」とあり、無償化の言葉が消えています。
教育の充実も無償化も、憲法を変えなくても実現できます。
憲法第26条の「すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する」「義務教育は、これを無償とする」を実行するだけです。
高等教育も、段階的な無償化を定めた国際人権A規約第13条(日本も批准)に基づきすすめればよいのです。
日本の教育への公的支出は、OECD(経済協力開発機構)34カ国中最下位ですが、税金の使い方を変えれば無償化は実現できます。
そもそも無償化などやる気がないのに、自民党が改憲項目に「教育」を入れたのは、「教育無償化」を掲げている日本維新の会を改憲勢力に引き込むための戦略です。
自民党の改憲案では26条に「国は」の主語を入れ、教育への国家介入を憲法上できるようにしたいとのねらいが見えます。
以上のように、自民党は改憲4項目を打ち出していますが、安倍首相と自民党の改憲の真のねらいは、9条改憲で自衛隊を海外で無制限に武力行使できる軍隊へと変えることです。改憲策動を3000万署名で押し返し、統一地方選挙できっぱりと「9条改憲ノー」の審判を突きつけましょう。