2011年2月17日 ジェンダー平等

平等社会がつくる福祉と経済発展スウェーデンに学ぶ

新婦人「ジェンダー平等講座」より

駐日スウェーデン大使館一等書記官 エリノール・ブロンベリさん

ジェンダー2
福祉を充実させながら経済も発展させている国として、注目を集めているスウェーデン。そのカギは世界でもすすんだ男女平等の社会があるーー。新婦人は2011春の行動プレ企画「ジェンダー平等連続学習講座」第1回を2月2日、駐日スウェーデン大使館一等書記官のエリノール・ブロンベリさん(34)を講師に迎えて開きました。赤ちゃん連れの女性や青年など170人を超える参加で会場は熱気にあふれました。(詳細は『月刊女性&運動』3月号に掲載)

最貧国が急発展、一人ひとりの自立を保障

「私は半年前、日本に赴任しました。夫と3歳、5歳の息子がいます。夫と私はフルタイムで働き、育児休業を私が1年、夫が6カ月とりました。私が日本にくることで、夫は仕事をやめ、一緒にきました」
ブロンベリさん自身が、仕事と家庭・子育てを両立させながら、第一線で働き続けています。
講演「スウェーデンモデルとはどういうものか」からスタート。スウェーデンは、19世紀の終わり頃、ヨーロッパで最も貧しい国の一つでしたが、急速に発展し、先進国に仲間入りました。その特徴としてまずあげたのが「一人ひとりが自立し、個人の自主性が確立していること」でした。
スウェーデンで理想的な家族のあり方は「おとなが2人とも働き、互いに依存しない。子どもたちも早くから自立している」というもの。
家族法の改正で年配者の面倒をみる義務をなくしたこと、だれもが子どもを保育園に預けて働ける状況をつくってきたこと、課税が個人単位となっていることを指摘。子どもへの体罰をなくし、若者が家族から経済的に自立して勉強できる条件を整え、子どもの自立と自主性を促すなど「法整備で、家族に頼らない、個人の自主性が確立した社会を実現しています」と。
ブロンベリさんは、「私のまわりには専業主婦はほとんどおらず、私の家庭でも夫婦2人が働いている姿をみせることが、子どもたちにお手本をみせることにもなっている」と話します。

世界で活躍する大企業も自国に基盤

さらにスウェーデンの特徴として「高い税金と一体の市場経済」「収益の高い産業と強力な労働組合での存在」「発展する民間企業と高い質の公共部門」をあげました。
労働組合、政府、企業の三者が「どのような社会をめざすのか」の一点で協定を結び、合意していることの重要性を強調。「IKEA、H&M、エリクソンなどの世界的な企業が、高い税金でも自国に基盤をおいて活動し、昨今の経済危機のもとでも成長をとげている」との話が日本との違いをうきぼりにします。
スウェーデンが大きく変化したのが1970年代。労働力の不足から、女性の労働参加が不可欠となり、そのため政府・企業をあげたとりくみがすすめられてきました。

仕事と家庭両立の徹底したシステム

たくさんの質問が寄せられた (2日)

たくさんの質問が寄せられた (2日)

70年代以降、男女とも仕事と家庭のバランスをとれる政策を政府がとってきた結果、現在、母親の80%、父親の90%が働き、出生率は1.91です。労働時間は週40時間ですが、子どもの送り迎えが必要な労働者のために1週間のうち2日早く帰っても給料に影響せず、「公的部門では午後3時以降に会議をしないことになっている」と紹介したときは会場にどよめきが。親は子どもが8歳になるまでパートタイムで働くことができ、それは「権利」と言います。
さらいに公的保育、育児休業と子ども手当、義務教育はもちろん高校、大学まで無料で高い水準の教育、「親休業」の制度を確立してきました。
「最も決定的だったのは公的な保育園をつくったことです」とブロンベリさん。保育園は12カ月から5歳までの子どもが利用でき、自治体には朝の6時半から夕方6時半まで保育の提供が義務づけられています。保育料は毎月の収入によって決められ、第1子は収入の最大3%(月約1万6000円)、第2子は2%(月1万800円)、第3子は1%(月5250円)、第4子からは無料です。
1974年に世界で初めて導入した「親休業」はそれまで母親だけが対象だった育児休業を、両親がとれる制度に変えたもの。雇用主は労働者が育休をとることを拒否できません。育休は両親あわせて最大480日、父・母それぞれ240日取得でき、うち60日間は配偶者にゆずることができません。父親は子どもが生まれてから10日間の休暇をとることができます。父親の85%が育休を取得していますが、60日間すべてを取得しているのは22%(2010年)。育休をとらない男性には「なんでとらないの?」とプレッシャーがかかると言います。男性の育休取得を奨励するため、08年に「ジェンダー平等ボーナス」制度を導入。男女双方が育休期間60日間を超えて取得したら、それぞれ約17万円の税還付のボーナスが出ます。
一人ひとりが自立でき、働くことが前提の社会を支えるシステムが徹底し、その努力がいまもつづいていることが伝わってきました。
国営企業の役員レベルは51%が女性、民間企業は20%です。国営と民間には大きな違いがありますが、「管理職の40%は女性」というルールを適用するなど、「国営企業がまずお手本を示している」と言います。

税金が高くても戻ってくる実感

「スウェーデンの税金が高いことはよく知られていますが、国民には“税金は必ず自分に戻ってくる”と理解されています」と。消費税は25%、所得税は30%、最高税率は50%です。税金が高くても、子育て支援の充実に加え、高齢者も手厚く生活保障されています。会場から「老後のための貯金は?」との質問がでると、「年金だけで暮らすことができます」と回答。「家族に頼らず一人暮らしの老人は多いけれど、自治体の支援やグループホームなど“拡大家族”で暮らすなど、社会的なケアを行っている」と言います。

平日の公園で子どもとあそぶパパ―スウェーデン (綿貫朋子さん提供)

平日の公園で子どもとあそぶパパ―スウェーデン (綿貫朋子さん提供)

税金の使い方には国民の関心が高く、知る権利、意見表明を重視しています。政治への信頼が高いのは、選挙制度が民意を反映する比例代表制であることと関係が深く、女性の国会議員の比率が世界で最も高い国のひとつです。
1814年以来、戦争をしていない国。「戦争に加担してこなかったことが経済的発展をとげ、福祉国家をつくるうえで重要だった。徴兵制を廃止して(2010)軍事費を削る努力をしている」とも述べました。
ブロンベリさんは、「ジェンダー平等な社会は個人にとっても優位性をもたらす」とともに、「家族にやさしい働き方は、企業にとっても有能な人材を確保できる道になる。ジェンダー平等によって女性が能力を発揮でき、そのことが福祉と経済発展、国際協力にもつながる」と強調しました。日本社会のあり方を問い、どう閉塞状況を打開していくのか、学ぶことの多い講座となりました。

スウェーデンと日本のちがいは?

スウェーデン 日 本
世界ジェンダーギャップ指数2010 (GGI) 4位 94位
女性の賃金(男性を100とした場合) 92 (※1) 50.3 (※2)
出生率 1.91 1.37
女性の管理職 51%(国営企業役員)
52%(地方行政管理職)
5.0%
(30人以上の民間企業)
女性の国会議員 47% 10.9%
女性大臣 46%
(大臣24人中11人)
6%
(大臣18人中1人)

(※1) 年齢、労働時間、産業などの平均
(※2) 厚生労働省「2008年毎月勤労統計調査」より、パート含む常用労働者1人平均月

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