新日本婦人の会は、11月21日、【見解】「『年収の壁』をめぐって―女性が自立して生きられる、ジェンダー平等の制度への転換を求めます」を発表しました。
見解「年収の壁」をめぐって―女性が自立して生きられる、ジェンダー平等の制度への転換を求めます
2024年11月21日 新日本婦人の会
「年収の壁」が大きな社会問題となっています。収入が一定額を超えると税金や社会保険料の負担が発生するため、手取り収入が減らない範囲で働くことを「壁」と表現しています。「103万円の壁」は年収がこれを超えると所得税が課税され、アルバイトで働く学生などは親の所得税の扶養からはずれて親の手取り収入が減少します。「106万円の壁」「130万円の壁」とは、パートなどで働く女性が配偶者の扶養からはずれ、年金や健康保険に加入して保険料を払うことで大幅に手取り収入が減ることです。
この問題に大きな関心が集まっている背景には、この30年間、先進国で唯一賃金が上がらないうえ、物価高騰や社会保険料負担増が生活を直撃し、高学費のために学生がアルバイト漬けになるなど、日本のゆがみがあります。自民党政権が、財界やアメリカのいいなりに、労働法制の連続改悪で非正規雇用を増やし、社会保障や教育費を削減する一方で軍事費を増大させてきた結果です。
この問題は日本のジェンダー施策の際立った遅れの表れでもあり、今こそ大胆な見直しが必要です。この10月、国連の女性差別撤廃委員会は日本が「OECD(経済協力開発機構、38カ国)加盟国のなかで女性の貧困率が15.4%と最も高い」と指摘し、政府に対策を勧告しました。働く女性が専業主婦を上回り、7割の世帯が共働きとなっているにもかかわらず、税と社会保障制度は性別役割分担にもとづく世帯単位で設計されたままです。サラリーマン世帯の専業主婦の国民年金3号被保険者や配偶者控除・配偶者特別控除などが繰り返し問題となってきましたが、政府が一時しのぎで済ませ、わかりにくい制度にしてきました。女性の53%が低賃金の非正規で働き、賃金が男女格差に連動して年金が少ないため、老後も働かざるを得ない状況がひろがっています。
誰もが自立し、安心して生きられるジェンダー平等社会へ、全面的に制度を見直し、転換するよう、以下を求めます。
1、憲法が定める生存権と人権を基本にすえて
〇103万円、106万円、130万円の見直しは、国民の生存権と国の責務を定めた日本国憲法にもとづき、生活に必要な生計費には課税せず、負担能力に応じて税金を払うという原則に立ち返ってすすめること
〇高物価・生活苦・低賃金にあえぐ女性や国民の新たな負担増(手取り収入減)にならない措置をとること
〇税と社会保障の制度を世帯単位から個人単位へと改め、第3号年金や配偶者控除を廃止する場合、負担増とならない手立てとセットですすめること
2、税・社会保障、雇用、教育の抜本的改善を
〇103万円の課税最低限を引き上げること。低所得者ほど負担の重い消費税は廃止へ、ただちに5%減税をおこなうこと
〇106万、130万円にかかわるパートの社会保険加入促進や3号年金の廃止は、中小業者支援や手取り収入が減らない措置とあわせてすすめること。高すぎる国民健康保険料は国庫負担の増額で引き下げ、自治体独自の法定外繰り入れを認めて子ども均等割をなくすこと
〇低年金の解決へ、国庫負担の増額と巨額の年金積立金の活用で給付額を大幅に引き上げ、先進国で当たり前の全額国庫による最低保障年金制度の創設を急ぐこと
〇最低賃金を全国一律の時給1500円へと急ぎ引き上げ、社会保険料の事業主負担の軽減など中小業者支援をおこなうこと
〇賃上げと一体の1日7時間週35時間労働、ケア労働者の待遇改善をすすめ、非正規雇用から正規雇用への流れをつくること
〇子ども関連予算を抜本的に増やし、出産から保育、学校など子育てにかかる費用を軽減すること
〇大学の学費値上げ計画を中止し、値下げ・無償化へ、また給付制奨学金制度を充実させること。野党が一致して公約した高校まで所得制限なしの授業料無償化を実施すること
3、財源は十分ある―軍事費削減と不公平な税制是正を
〇異常に膨張する軍事費を削減すること。次世代につけをまわす国債乱発はやめ、地方財政が逼迫しないようにすること
〇大企業や富裕層優遇の税制を正し、大企業の法人税(1984年43.3%、今23.2%)の引き上げ、539兆円の内部留保の一部課税、「1億円の壁」の撤廃や高額所得者の最高税率引き上げ(1986年75%、今45%)など累進課税強化をすすめること
勧告は、60項目にのぼり、なかでも新婦人が長く運動にとりくみ、署名を積みあげてきた「選択的夫婦別姓の導入」「女性差別撤廃条約選択議定書の批准」「日本軍『慰安婦』など歴史的事実を教科書に反映」「所得税法56条の改正」が明記されたことをはじめ、男女の賃金格差や女性の低賃金の改善、包括的性教育の実施、さらに沖縄米兵の性暴力防止と加害者処罰・被害者補償、コンビニの成人誌調査の今後にもかかわって「差別的なジェンダー・ステレオタイプのポルノ製品の法的規制と監視」も盛り込まれています。
勧告を大いに生かし、「新婦人に入って一緒に」と運動を広げ、総選挙で公約した議員や政党にも迫って、ジェンダー平等を前にすすめていきましょう。
以下からPDFでダウンロードできます。
【見解】国連女性差別撤廃委員会勧告―私たちの運動を反映、大いに生かし前進を20241121【見解】103万円の壁